<トピックス>

難病対策要綱から40年以上を経て誕生した「難病法」
施行半年で見えてきた課題とこれからの患者団体の取り組みを考える

2015年1月に「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」と改正児童福祉法が施行され、新たな難病対策がスタートしました。そこで、新しい難病対策の法整備に向けて活動を続けてきた一般社団法人 日本難病・疾病団体協議会(以下、JPA)代表理事の森幸子さんに、施行から半年を経た難病法と、その課題や今後の展望についてお聞きしました。
難病対策要綱から40年以上を経て法制化された「難病法」

我が国における難病対策は、1960年代から70年代初頭にかけて、神経難病のスモンの発生時にあたって、厚生省(当時)のプロジェクト方式の調査研究により、原因が整腸剤キノホルムであることを突き止めたことに始まり、1972年にまとめられた「難病対策要綱」に基づき、医療費の助成や調査研究、医療施設の整備などの対策が行われてきました。これらの難病対策は一定の効果を上げてきましたが、同じような症状を示す病気でも医療費助成の対象でないものがあることや、医療費助成事業の予算確保が難しくなってきたことなどの課題が指摘されるようになりました。

そこで、2011年に難病対策全体の見直しが始まり、2014年5月に成立したのが「難病の患者に対する医療等に関する法律(以下、難病法)」で、2015年1月から施行されています。指定難病の医療費助成は、1月から先行して施行された110の疾病に、7月からは新たに196疾病が加わり、306疾病を対象として開始されています。 難病対策要綱以来、40年以上の年月を経て、ようやく法律に基づく対策として難病対策が位置づけられました。このことは、難病などが対象に入った障害者総合支援法や小児慢性特定疾病対策をはじめ、福祉、介護、就労支援などと一体化した総合的な難病対策に道を開くものとして大きな意義をもつと考えられます。

新たな難病対策に見えてきた課題とは

新たな難病法については、患者・家族や医師への周知徹底をはじめ、指定医・指定医療機関の登録や、地域での診療所や開業医も含めた医療ネットワークの構築、難病相談支援センターの拡充、それらを患者ニーズに合わせて展開していくための難病対策地域協議会の設置と、そこへの当事者の参画など、法律に基づき対策を推進させるためのさまざまな課題があります。

また、指定難病に対して個々に重症度分類(基準)が制定されたことや、今まで特定疾患治療研究事業や小児慢性特定疾患治療研究事業で医療費助成を受けていた人たちの多くの自己負担が引き上げられたことも課題のひとつです。特にこれまでゼロだった重症患者や低所得者の自己負担や、入院時食事療養費の一部負担が新たに生じることになりました。日常生活、社会生活に支障がある人たちが指定難病の医療費助成を受けられなくなったり、負担が重すぎるようになったりしないよう、施行後の実態を注視する必要があります。さらに、疾病に関する情報不足や要件を満たさなかったことから指定難病に認定されなかった疾病や、小児慢性特定疾病の対象疾病の患者が成人した場合の社会的支援策の問題も、多くの疾病では未解決のままとなりました。

難病対策の整備に向けたJPAの取り組み

JPAは、医療費の負担に悩む多くの患者のために、難病法および改正児童福祉法の成立に向けて各政党や国会議員への働きかけを行い、当事者団体として力を尽くしてきました。そして、法制定後も、指定難病対象疾病の検討過程や、法施行準備や内容の周知においても、加盟団体とともに患者のための制度となるよう働きかけを行ってきました。

昨秋にはすべてのJPAの地方ブロックの交流会やブロック会議に厚生労働省の担当者の参加を求め、患者団体を通じて患者・家族への制度の周知を行ってきました。また、難病対策の改革に向けて2010年からJPAが世話人の一団体として開催してきた「難病・慢性疾患全国フォーラム」では、改革の進捗状況が報告・提言され、厚生科学審議会の難病対策委員会での提言まとめや、難病法の制定に大きな役割を果たしてきました。2014年のフォーラムでは、法制定後の総合的な対策を見据えて、福祉、介護、リハビリ、年金などの専門家からの発言を盛り込み、難病法制定で課題とするべき問題を明らかにしました。今後も難病対策や医療福祉制度の推進について幅広く取り組む活動を続けていきたいと考えています。

さらに、7月にはJPAと「難病のこども支援全国ネットワーク」の共催で、「総合的な難病対策および小児慢性特定疾病対策『基本方針案』説明&意見交換会」と題し、厚生労働省の健康局をはじめ雇用均等・児童家庭局などの各課の参加を得て、患者団体を対象とした説明会を開催し、新たな法制度のもとでの施策の推進について、基本方針の説明と意見交換会を実施しました。

今回の法律だけで難病にかかわる問題が解決できるわけではなく、新たな課題も指摘され、また、就労や教育など項目としては挙がっていても具体的な対策が立てられていない分野もあります。今後も行政や医療関係者との討議の場を通して、難病対策の実態調査や進捗状況をふまえた要請・提案を行っていきたいと考えています。

障害者総合支援法における対象疾病も、指定難病の検討をふまえて1月からは151疾病、7月からは332疾病に増加しました。しかし、障がい者福祉における支援の対象は、視野を広げて福祉的支援を必要とするすべての疾病に対象を拡大し、検討すべきであるとして国への働きかけを進めています。また、難病法と障害者総合支援法や、介護保険制度の利用についてなど、周知されていない部分やわかりにくい部分も多いことが、都道府県の難病相談支援センターや各地のケースワーカーなどからも指摘されています。どう組み合わせて、何を優先して使えばよいのかなどを総合的に理解するため、「難病患者への支援体制に関する研究班(西澤班)」の中にはJPAのメンバーが研究者として参画しており、研修会の実施や研修テキストの作成を計画しています。

難病対策を“育てる”ことを目指して

1972年の難病対策要綱から40年以上にわたって難病対策に取り組まれてきたJPA前代表理事の伊藤たておさんから、難病法施行の今年、代表理事を受け継いだことに、私は大きな責任と意義を感じています。伊藤さんをはじめとする先輩方の活動の成果とネットワークを活かし、多くの団体の協力を得ながらゆるぎない組織を整備し、患者・家族のみなさんから信頼を得て、生活の基盤を守り地域を発展させていけるような活動を展開することが私たちの役割だと考えています。

制度ができても、私たち当事者が活用できなければ意味がありません。法律はそれができて終わりなのではなく、より良いものへと成長させていかなければなりません。常に修正・追加し、次のステップへ進めていくべきですし、法律に縛られるのではなく、必要に応じて広げていくべきものです。

そして難病法は、難病患者のためだけにあるのではなく、多くの疾病にも拡大される可能性をもち、最終的に国民の健康に寄与するものです。難病対策を育てていくのは、私たち患者団体の責務でもあるのだと思います。難病患者が安心できる暮らしやすい社会は、障がい者や高齢者、すべての人が暮らしやすい社会であるという思いを大切に歩んでいきたいと考えています。

国が実施してきた難病対策の取り組み
1960年代から
70年代初頭
多発した原因不明の病気スモンへの対策として、研究推進と医療費助成を連動して行い、患者救済と原因究明(整腸剤キノホルムによる薬害)に成功
1971年 厚生省内に難病対策プロジェクトチームを設置
1972年 「難病対策要綱」が定められ、①調査研究の推進、②医療施設の整備、③医療費の自己負担の解消の3本柱を中心とし、福祉サービスにも配慮した難病対策を推進(医療費助成の対象4疾患、調査研究対象8疾患)
2003年 全国の都道府県に難病相談支援センターの設置開始
2009年 ●医療費助成事業の対象を56疾患に拡大
●難治性疾患克服研究事業の対象を拡大し、研究班も大幅に増加(130疾患)
●「研究奨励分野」を新設
2011年 9月第13回厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会で難病対策の見直しについて審議開始
12月第18回同難病対策委員会「今後の難病対策の検討に当たって」(中間的な整理)
2012年 2月社会保障・税一体改革大綱の閣議決定
8月第23回同難病対策委員会「今後の難病対策の在り方」(中間報告)
2013年 1月第29回同難病対策委員会「難病対策の改革について」(提言)
8月社会保障制度改革国民会議報告書
12月「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」成立
12月第35回同難病対策委員会で「難病対策の改革に向けた取組について」(報告書)を取りまとめ
2014年 5月「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」成立
10月指定難病(第1次実施分110疾病)を告示
2015年 1月「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」施行
1月児童福祉法一部改正、小児慢性特定疾病が704疾病に拡大
7月指定難病(第2次実施分196疾病)が加えられ、306疾病が対象となる
8月第42回同難病対策委員会(難病対策委員会としての取りまとめ)