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中井 伴子 さん 日本ハンチントン病ネットワーク 相談役・代表補佐

医学生、看護学生などを対象に、また、教育機関にとどまらず学会や医療セミナーなどのさまざまな場で、患者やその家族が自らの体験を語る「患者講師」の活動が広がっています。これを受けてVHO-netでは、講演依頼があれば対応できる体制づくりを目指して活動しています。疾患や生活、社会環境や患者団体を通しての活動などを「生の声」で語る。そこには教科書や論文に載っていない切実な思いや、一人ひとりの生き方が息づいています。医療・福祉の現場、市民社会に種を蒔き、それが芽生え、大樹へと育っていく。そんな患者講師の活動を紹介していきます。

中井 伴子 さん
日本ハンチントン病ネットワーク 相談役・代表補佐
VHO-net関西学習会 運営委員 ハンチントン病は、日本人では100万人に5〜6人未満という遺伝性の希少難病。物事に対する認識力の喪失、不随意運動、抑うつなどの症状が現れ、個人差はあるが進行するにつれ介助・介護が必要となり、ほとんどの場合、家族が自宅で介護している。
どんな医療者になってほしいか患者・家族の立場から本気で話す

日本ハンチントン病ネットワーク(以下、JHDN)は私の親族が代表となり2000年に設立しました。代表が突然、事故で亡くなり、予定していた学会での講演を私が代わりに行うことになりました。用意してもらった原稿を棒読みしたことを覚えています。それにもかかわらず終了後、医師や看護師に取り囲まれ、「初めて当事者の方にお目にかかりました」「ぜひ、うちの大学で講演してください」と言われ、こんなに関心をもってくれているのかと驚きました。私は「at-risk(発症する可能性がある)」の立場ですが、当事者が実名で人前に出るケースがそれまでなかったのです。ただ、その後に依頼された講演でも、患者や家族の思いを語る技量もゆとりもありませんでした。

ところが、2003年から千葉大学に患者講師として毎年呼ばれるようになってから、徐々に自分の思いを伝えるスタイルに変化していきました。こういう医療者になってほしいと本気で思っていることを、懸命に語る。こちらが本気だと聞く人も本気で聞いてくれる、伝わるのだと実感しました。

患者団体での活動体験を講演の内容に反映

同時期にJHDNの活動として電話相談を開始しました。そして、介護について、at-riskの人が遺伝子検査を受けるかどうかの悩み、大人よりも重い症状が出る若年性ハンチントン病についてなど、いろいろな事例や患者・家族の苦しみ、葛藤に触れ、講演に反映していくようになりました。私は会員の言葉を代弁している、そこに一番の力点を置いて語る。その気持ちが強くなるにつれ緊張がとけ、発表スライドにも改良を加えていきました。

2004年に発足したVHO-netの関西学習会では、患者の声を医学教育に組み込むための模擬講演を続けています。他団体の講演を聞くことで触発されます。ある網膜色素変性症の団体の方が模擬講演された時、視覚障害があるのでパソコンを使用せずに話をされました。それによって聞く側の集中力が高まり、内容が記憶に残ることを経験しました。また、すでに患者講師の経験豊富な方もいて、その活動がきっかけで医療制度を変えることにつながった事例もありました。患者が語ることの影響力を改めて実感しました。

理解してほしいつながりたいという思いをもって、前へ

ある大学の医学系研究科での講演後、感想の中に「基礎研究をすることへのモチベーションが上がった。顕微鏡の向こう側が初めて見えた」という言葉がありました。すごくうれしかったですね。講演を続けていると、マンネリ化していると思うこともありますが、気合いを入れなければと、思いを新たにします。質疑応答の時間を多めに取れるように構成し、途中みなで語り合う時間をもつ工夫などもしています。

関西学習会では今、より良い講演のポイント集をまとめています。内容、構成、話すスピード…。検討する項目が想像以上にたくさんあることに驚きました(笑)。伝えることで理解してもらえる、つながる。そこから前に進むことを信じて、これからも患者講師という役割を深耕していきたいと思っています。

伝えるためのコツ

●与えられた時間を守る
●聞く人が話に集中できるよう、派手な服装は避ける
●自分の言葉で自分の体験を語る
●質疑応答の時間をつくる