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大木 里美 さん 中枢性尿崩症(CDI)の会 渉外担当

中枢性尿崩症(CDI)は、本来、脳下垂体から分泌される抗利尿ホルモンが分泌されないか低下する病気で、これにより腎臓内での水の再吸収がうまく促されず、体内の水分が大量の尿となり、常に水分不足の状態になる病気。足りないホルモンを補充する治療で通常に近い社会生活を送ることができるが、完治を目的とする治療法はない。指定難病、小児慢性特定疾病のひとつ。

市民公開講座への参加から患者講師の先駆けとなる

私は患者団体「中枢性尿崩症の会」に参加して、悩みやつらさを分かち合える仲間に出会い、また病気や薬のことを学び、未承認薬の承認を求める活動や、特定疾患の追加指定を受けるための活動に取り組んできました。患者講師のきっかけは、VHO-netのワークショップに参加して刺激を受け、医学教育にかかわりたいと考えて群馬大学医学部の市民公開講座に参加したことでした。

2006年から医学部学生を対象とした患者講師を引き受け、その後、看護学校や製薬企業、薬剤師会、医療者の勉強会、学会、行政関係、ほかの患者団体などで講演や発表を行ってきました。特に、患者団体として未承認薬や特定疾患に関する活動に取り組み、治療薬発売後の患者の反応やQOLの改善などのアンケート調査までの一連の流れを経験してきたので、薬に関するテーマで製薬企業などから依頼されることが多いですね。

確実に伝えるためにオーダーメイドな講演を心がける

心がけていることは、講演や授業の趣旨、対象者や依頼先の目的に合わせたオーダーメイドな講演です。毎回原稿を作り、資料のスライドも必ず相手に合わせて作り変えています。発表スライドは、視覚的に見てほしい写真や資料などにとどめています。最初は原稿を作り丸暗記していましたが、今は、原稿をざっくり覚えるようにしています。ただ体調の波が大きいので、体調が悪い場合に備えて最低限これだけは伝えたいという内容は暗記しています。

私が伝えたいことは、医学書には載っていない患者の気持ちや、なぜ私たちは治療薬や特定疾患の追加指定を求めて活動してきたのかという背景です。私は人前で話すことが得意というわけではないので、講演後の感想文やアンケートを読み込み、伝わりにくかったところなどを改善するようにしています。気をつけているのは、必ず応援メッセージを入れること、批評はしないこと。聞く側にとって「ちょっといやだな」という内容は淡々と事実のみ話すようにしています。また、情報などに間違いがないように、医学書なども必ず毎年チェックし、不明な部分は顧問医に確認しています。

最も大変だったのは、外資系の製薬企業の幹部を対象として逐次通訳が行われたケースです。伝えたい内容を盛り込みつつ、一文ずつ訳しやすくするのに苦心しました。幸い好評で、その後もその企業から依頼が続いたので、努力は裏切らないと実感しました。

聞く側も話す側もともに学ぶのが患者講師

患者講師がまだ知られていない頃から先駆けとして活動を始めたので、患者講師が増え、裾野が広がるようにしっかりと取り組もうと考えてきました。感想文やアンケートを読むと、講演を聞いてくれた方は、必ず少し変わってくれている気がします。患者の声を聞き、理解してくれる医療者や支援者が増えれば、私たちにもプラスとなって返ってきます。

患者講師を経験することによって、私の人生も変わりました。医療者との接点もでき、医学書の制作にかかわるなど世界が広がりました。また、相手の気持ちや立場を考えて話すようになったせいか、陳情がうまくできるようになったとも感じています。一方的に要望を述べるより、行政の方の立場も考えながら話す方が思いが伝わりやすいのではないでしょうか。私自身も聞き手から学ぶことが大きく、患者講師は聞く側も話す側も、ともに学ぶ“共育”だと思っています。患者講師の活動は“人生の宝”です。これからも望んでくださるところがあればどこへでも伺い、お話ししたいと 思っています。

伝えるためのコツ

●聞き手の目的に合わせたオーダーメイドな講演を心がけ、十分な準備をする
●医学書や専門書には載っていない自分の体験を語る
●指示された時間設定を守り、適切な時間配分を心がける
●聞き手への応援メッセージを必ず入れる