<まねきねこCircle>

高齢化の進む透析患者を救うために
患者団体と医療者が取り組む災害対策

腎臓病が進行して末期腎不全となり、人工透析が必要となった人は、原則として透析治療を週3回受けることが必要です。台風や災害発生時にも透析治療は必要であるため、患者団体や医療者の災害に対する危機意識は強く、早くから行政にも働きかけて対策が講じられてきました。透析医療に携わる医師の団体である公益社団法人 日本透析医会(以下、日本透析医会)が中心となって構築した「日本透析医会災害時情報ネットワーク」は、2011年の東日本大震災の際も機能し、多くの透析患者が救われたと高く評価されています。そこで、東日本大震災の経験を経て、ヘルスケア関連団体と医療者がそれぞれ、どのような点を重視して災害対策に取り組んでいるのか、どのような連携を考えているのかを取材しました。

ヘルスケア関連団体の視点

医療者や行政の協力も得て、“自助”の備えと自覚を促す

一般社団法人 全国腎臓病協議会 副会長 馬場 享 さん
専務理事 水本 承夫 さん

東日本大震災では緊急透析や避難透析によって多くの患者が救われた

一般社団法人 全国腎臓病協議会(以下、全腎協)では、1995年の阪神・淡路大震災、2004年の新潟県中越地震、2007年の新潟県中越沖地震の経験を基に、患者向けの災害マニュアルを作成するなど災害対策に取り組んできました。2011年の東日本大震災では津波による犠牲はありましたが、建物の被害が少なかったことで、透析中の患者が被害を受けることはなく、ラジオやテレビで緊急透析の可能な施設の情報提供も行われ、多くの患者が治療を受けることができました。透析には大量の水と電気を必要とするため、ライフラインが復旧するまで患者が移動する「避難透析」も行われました。その際、日本透析医会の災害時情報ネットワークによって、受け入れ可能施設の情報が取得でき、有効に活用されました。

一方で課題となったのは、避難のあり方です。避難所で栄養制限や水分制限が必要な透析患者であることを申告せずに、提供される食事を摂り、結果的に体調を崩して亡くなったケースがありました。また、避難透析での長距離の移動や長期間の避難生活は高齢の患者にとって、かなり大きな負担となったようです。

高齢化や地域による意識差、会員以外への情報提供が今後の課題

東日本大震災後も各地で台風や豪雪などの災害が発生し、全腎協では、災害対策は緊要の課題と考え、災害対策委員会を立ち上げました。私たちの最も重要な役割は、患者が自分の安全を守る“自助”について自覚を促し、準備を進める啓発活動だと考えています。そのために、災害時における自助・共助・公助についてのマニュアルの作成や、製薬企業が提供する災害手帳の改善提案などを行っています。透析患者に特化した災害マップの作成も検討中で、日本透析医会の山川智之先生が監修した災害対策のDVDも活用したいと考えています。

今後の課題としては、患者の高齢化に加え、地域によって行政の取り組みに温度差があることが挙げられます。新潟県など災害を経験した自治体では透析食の備蓄も進み、首都直下型地震などが起きた時に備え、他県の透析患者を受け入れる場合のシミュレーションも行っています。しかし、比較的災害の少ない地域では危機意識が低く、対策が遅れています。大雪や豪雨など全国どこでも災害が起こる可能性はあります。透析中に災害に遭った際の対応から、患者の移動、避難所での対応、長期避難までの一体化した災害対策が必要であり、そこに当事者の視点を活かすために、私たちはどうかかわるべきかを模索しているところです。 会員以外の透析患者に必要な情報を発信し啓発していくことも、大きな課題です。医療者や行政との協力がなければできない取り組みですから、今まで以上に関係機関との連携を深めていきたいと考えています。

医療関係者の視点

医療者間のネットワークを中心に、積極的に災害対策に取り組む

公益社団法人 日本透析医会 常任理事
災害時透析医療対策委員会 委員長
山川 智之 さん

阪神・淡路大震災の教訓から生まれたネットワークが機能

日本透析医会は透析にかかわる医師の団体です。適正な透析医療の普及や事故・感染防止対策の推進に努めるとともに、大規模災害時の透析医療体制確保を最も重要な事業のひとつと位置づけ、災害時透析医療対策委員会を中心に災害対策に取り組んできました。1995年の阪神・淡路大震災を教訓として構築された日本透析医会災害時情報ネットワークは、新潟県中越地震をはじめとする各地の災害時にも効果を発揮してきました。東日本大震災でも早期に情報が収集・発信され、これを基に厚生労働省・地方自治体とタイアップした患者移送、避難透析が可能になったと評価されています。ただし、医療者間の連携やシステムの問題で透析治療を提供できなかった例はなかったものの、避難所で透析患者であることを申し出なかったり、自宅にいたままだったりして適切な治療が受けられなかったケースはありました。

また、福島第一原発事故による透析治療への影響は想定外でした。たとえば首都直下型地震など、ある程度被害が想定できる場合は災害対策も立てていますが、富士山噴火などになると不確定な要素が多く、難しいと考えているところです。

患者側の自覚、災害の備えと心構えも必要

課題としては、今後透析患者の高齢化がさらに進むことが挙げられます。2013年の時点で平均67.2歳です(日本透析医学会調べ)。高齢化につれてADL(日常生活動作)が低下し、自分で動けない人が増えていきます。避難に関して、宿泊や搬送手段などについては医療サイドのみでは対応ができませんので、行政と連携しながら災害対策を立案する必要があると考えています。

そして、患者さん自身の自覚も重要で、ふだんから自己管理を行い、災害時の心構えや準備をしておいてほしいと思っています。臨時透析に備えて透析施設から配布される「透析患者カード」などの治療情報や薬の携帯も必要です。災害時には、通院している施設か、それが無理ならば近くで透析を行っている医療施設にたどり着いてほしいと考えています。そこで透析を受けられなくても、避難透析につなぐことができます。

そのためにも、全腎協には患者さんや家族に向けての啓発活動を行ってもらいたいと考えています。私が監修した患者向けの災害対策のDVDを全腎協で配布する計画も進んでいるようです。私たちにはさまざまなノウハウもありますし、講演などの必要があれば進んで協力したいです。災害対策は難しいものであることを覚悟して、私たちもできることにはすべて取り組むという思いです。

一般社団法人 全国腎臓病協議会
すべての腎臓患者の医療と生活の向上を目的として結成された、透析患者を中心とする患者団体。現在、全国の会員数は約9万人。
公益社団法人 日本透析医会
1979年、都道府県透析医会連合会として発足。2012年に公益社団法人認可。

取材を終えて〜まねきねこの視点

災害に対する危機意識は患者の側でも医療者の側でも高く、早くから行政などに活発な働きかけが行われ、近年の大きな災害の教訓も活かしながら対策が進んできたことがわかりました。透析患者は31万人いると言われ、また高齢化も進んでいること、都市部での豪雪やゲリラ豪雨など従来とは異なる災害も増えていることなどから、当事者の視点で医療者と行政、患者や家族、一般の人たちとをつないでいく患者団体が果たす役割は大きいのではないかと感じました。