<患者の力>

患者の力を発揮する患者が増えている

慶應義塾大学看護医療学部
教授 加藤 眞三 さん

「元気の反対が病気ではない」

私は2005年に医学部より看護医療学部に異動してよりVHO-netをはじめとした患者会などの活動に積極的に関わり、患者会の世話をする多くの人に出会ってきました。その人たちが、自分自身の持病を持ちながら、明るく快活で元気に満ちあふれていることに、驚かされました。

「病気を持ちながら、こんなに元気な人たちがいる」と感じ、「元気の反対が病気ではない」ことに気づかされたのです。そして、次第に、「患者には力がある」と感じはじめ、さらに、この患者力を生かさなくてはこれからの医療を語れないだろうとさえ考えるようになりました。

一方で、現実の医療では、患者も医療者も、まだまだ、その力の重要性に気がついていないし、生かそうとしていないようです。このシリーズでは、VHO-netに参加する皆さんと一緒に、患者の持つ力の意味を考え、どのように生かしていけるかを考えていきたいと思います。どうぞ、ご意見を下さい。

時代が要求する大きな変化

新しい時代への変化が患者の力を必要としています。感染症などの急性病が医療の大きな問題であった時代には、医療は専門家に委ねるだけで良かったのかもしれません。しかし、現代は生活習慣病やがん、代謝病、自己免疫病など慢性病の時代を迎えています。病院で病気が治され終了していた急性病の時代とは異なり、慢性病の時代には患者は病気を抱えた上で日常の場で生活を送らねばなりません。

慢性病では、患者が病気の知識を持つことが要求されます。生活習慣病では、病気の原因や誘因になる食生活を含む生活習慣を改めることの重要性は言うまでもありません。他の病気でも、病気を増悪させず日常生活を送るために、障害を抱えた身体でどのような活動ができ、どのように生活をするかの知恵も必要になります。病院で医療者の下に管理される患者ではなく、自分自身で生活をコントロールしようとする患者像が求められるのです。

表1に示すように、急性病と慢性病では大きく対処の仕方が異なります。今までの医療では、急性病タイプで行われてきた時代が長く、慢性病の時代になっても現在の医療が時代の変化に十分対応できていないという面があるのです。

医者と患者との関係性の変化

米国において慢性病という概念が持ち上がった1950年代には、表2に示すように、医者(医療者)と患者の関係性についての重要な提案がなされています。救急の病気、急性病、慢性病によって、両者の関係性が大きく変化していくこと、能動と受容、説明と協力、協働作業という関係性になるであろうことが提言されているのです。

ある意味で、この変化は医療の歴史の流れでもあります。軍隊などでの外傷に対する医療が発達した時期には、医療者と患者は能動と受容という関係性でしかなかったのかもしれません。その後に急性病の時代が訪れ、一定の治療法が開発され、治療を適用する際にインフォームド・コンセント(説明と協力)が必要などと言われてきたのです。

しかし、慢性病の時代では、ある決まった特定の治療法があるわけではなく、医療者と患者が互いに情報を提供し合い、患者にとっての最善の医療を見つけ出すことが要求されます。そこでは、同意ではなく、合意という言葉がふさわしい関係性となるのです。

この関係性の変化は、個人の成長と発達の中で得られる関係性の変化にも相似します。乳児の時期には、児は母親に依存する能動と受容の関係性であり、その後に、父親に身を任せる管理・支配される関係性の時期があります。やがて、成熟し、独立した個人として周囲の人たちと大人の関係性を創り出していく時期を迎えます。

人類にとっての新しい時代の医療を創り出す

このように考えると、医療者と患者の関係性は、人類の成長とともに変化していくものと考えることができます。今、ちょうど、説明と協力から協働作業として成立する医療へと転換の時期を迎えているのです。

このような時期に、新しい医療に向かって新しい患者と医療者の関係性を創り出していくことは、抵抗の多い仕事であるかもしれません。しかし、やりがいのある有意義な仕事でもあります。

両者の関係性が変わるためには、両者の意識が変わることが必要とされます。したがって、新しい医療の創造を専門家の医療者任せにするのではなく、患者や市民も切り拓いていくための力を身につけなくてはなりません。

私は新しい医療を切り拓いていく患者像をVHO-netに参加している皆さんの中に見いだしました。そこで、新しい時代の医療に転換するための触媒としての役割を果たしたいと患者学を提唱しています。患者学は、患者と医療者の関係性について考える市民運動でもあるのです。皆さんにも、その運動に参加していただきたいと考えています。自分の周りから関係性の変化を創るということで。

加藤 眞三 さん プロフィール

1980年慶應義塾大学医学部卒業。
1985年同大学大学院医学研究科修了、医学博士。1985〜1988年、米国ニューヨーク市立大学マウントサイナイ医学部研究員。その後、都立広尾病院内科医長、慶應義塾大学医学部内科専任講師(消化器内科)を経て、現在、慶應義塾大学看護医療学部教授(慢性期病態学、終末期病態学担当)。
■著 書
『患者の力 患者学で見つけた医療の新しい姿』(春秋社 2014年)
『患者の生き方 よりよい医療と人生の「患者学」のすすめ』(春秋社 2004年)

※参考図書

■永田勝太郎:新しい医療とは何か NHK出版
■加藤眞三:患者の生き方 よりよい医療と人生の「患者学」のすすめ 春秋社
■加藤眞三:患者の力 患者学で見つけた医療の新しい姿 春秋社