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看護師からカウンセラーへ転身
患者に寄り添いながら、医療者とのよりよい関係づくりを模索

杏林大学医学部付属病院 心理カウンセラー 荒尾 みつ子 さん

看護師として大学病院で最先端の医療を経験し、看護教育にもかかわってきた荒尾みつ子さんは、現在、心理カウンセラーとして難病患者や家族の相談業務を手がけています。VHO-netでの出会いをきっかけに、患者さんを生活面や心理面でもサポートし、よりよい医療へとつなぎたいと新たな活動に取り組む荒尾さんにお話をお聞きしました。

看護師として勤務していた時は患者さんと医療者の関係について、どのように考えていましたか

大学病院で30年以上看護師として勤務していましたが、手術室、救急外来、集中治療室、外科、救急病棟など、とても忙しい中、重症患者を看護する部署が多かったため、患者さんとのかかわりは限られたものでした。退院後のケアを指導する場合、在宅生活の細かいところまでは把握していませんでしたし、患者団体とも直接的なつながりはありませんでした。

その一方で、看護師は心理面について専門的な教育を十分に受けていないのに、臨床の現場では、経験知で患者さんの心理面をアセスメント・実践して看護記録に残していかなければなりません。果たして患者さんの心理を正しく理解できているのだろうかと疑問や不安を感じていました。先端医療を行う大学病院では、医師の医学的な指示に対応できる看護師が有能と考えられがちですが、専門職としては患者さんの心理面、社会的背景を十分に理解し、対応することも大切ではないかと考えてきました。

看護教育に関しても、現在の看護系大学では看護師と保健師の資格が同時に取得できるカリキュラムになっていて、実習などの実践的な授業が少なくなっています。もちろん患者さんの生活面や心理を学ぶ科目もありますが、授業時間数は十分とは言えず、看護学生が患者さんを全人的にとらえられるようになるだろうかと危惧していました。

VHO-netの活動に参加してどのような気づきがありましたか

ファイザーの喜島さんに空手の指導を受けていた関係で関東学習会に参加するようになりました。

まず驚いたことは、各患者団体の活動内容が多種多様で、患者さんや家族の皆さんが自ら生命を守り、生活の質を高めるために工夫をしたり、行政や厚生労働省にも働きかけてエンパワーメントされたりしていることでした。そして、メンバーの皆さんと話し合ううちに、患者さん方の実体験に基づく忌憚のない正直な発言から、医療者は患者さんの生活の質的な部分に対する関心が少ないなぁと感じました。

また、同病であっても患者さん一人ひとりの悩みや抱える問題は異なり、医療者が考えている以上に、繊細で傷つきやすく個人差が大きいことも分かりました。さらに、医療者の何気ない言葉に傷つく、イライラする、気持ちが萎える、不安を強くするなどのつらい体験から医療者への不信感を抱きながら、患者さんの多くは我慢していることに驚きました。

そこで、患者さんと医療者がより良い関係を築くためには、患者さんの体験や患者さん目線に立って積極的に関心を寄せ、患者さんから学ぶという姿勢を持つことが必要ではないかと感じています。

杏林大学医学部付属病院の相談室での患者さんのカウンセリングについてお聞かせください

そもそものきっかけは、VHO-netでNPO法人 肺高血圧症研究会の重藤啓子さんと知り合い、患者さんのカウンセリングをしてほしいと頼まれたことです。団体の顧問医である佐藤徹先生は慶應義塾大学病院出身で面識があり、佐藤先生も患者さんへの心理面でのサポートが必要だと考えられていたことから、外来に患者さんや家族の相談室を設置することが実現しました。現在は週に2回、外来患者さんと入院患者さん、及び家族の相談に応じています。

相談内容は、病気や治療への不安や葛藤など心理的なものから、仕事や経済的な問題、家族関係の悩みまで多岐にわたります。相談というより、悩みや思いを誰かに話したい、聞いてほしいという人も多いですね。じっくりと話を聞ける環境を整えていますから、患者さんも話しやすいようです。相談内容は主治医に報告して問題を共有し、私ひとりでは対応できない困難なケースは、心療内科など紹介して対応しています。

患者さんの相談を受ける中で気づいたことは

病気とともに生きる姿勢として、病気を受け入れて今までの価値観や信念を整理し、新たな目標に向かうという考え方は、理論としてはわかるのですが、現実にはとても難しいことなのだと改めて思いました。家族にとっても、病気のことは理解できても、重篤な病気の患者さんを受け止めながら自分自身の価値観を変えていくのは、患者本人より大変な場合もあるのではないかと思います。

また、医療者と患者さんの感じ方の違いも実感しました。治療方針などについて、患者さんが納得していると医師は判断していても、患者さんはまだ受け入れられてない場合もあります。こうした行き違いや距離感を解消していかなければ、患者さんを本当に理解することはできませんし、よりよい医療を実現することはできないと思います。

よりよい関係づくり、よりよい医療の実現に向けてVHO-netに期待することを教えてください

VHO-netにはドクターの参加も増えていますが、ぜひ、現役の看護師が参加するように働きかけてほしいと考えています。病院の中でチーム医療の要としてさまざまな専門職と患者さんをつなぎ、患者さんのいちばん近くにいるはずの看護師こそ、患者さんの心理面や社会的背景を把握することが必要だからです。直接、患者さんの声を聞くと理解も深まり、看護の中で自分の視野や考え方の狭さに気づき、臨床の場での行動や患者さんや家族へのアプローチがよい方向へ変わっていくはずです。まず、認定看護師や専門看護師などより専門性の高い看護師や、若い看護師を指導する立場の人に働きかけてはどうでしょうか。

私もVHO-netに参加しながら、看護師と心理カウンセラーという立場を活かし、看護師や医療者と患者さんのよりよい関係づくりに向けて、何が必要なのか、どう取り組んでいけばいいのかを考えていきたいと思います。

荒尾 みつ子 さん プロフィール

准看護師として産婦人科医院、市中病院勤務を経て、慶應義塾大学医学部付属女子厚生学院を卒業し慶応義塾大学病院勤務。同大学看護医療学部で教員として看護教育にも従事。
現在は、杏林大学医学部付属病院 循環器内科・肺高血圧症専門外来にて患者や家族のカウンセリングを担当。

肺高血圧症について
肺高血圧症は、心臓から肺に血液を送る血管(肺動脈)の末梢の小動脈の内腔が狭くなって血液が通りにくくなり、肺動脈の血圧(肺動脈圧)が高くなる病気。肺動脈に血液を送る右心室は高い圧力に耐えられるようにできていないため、肺動脈圧の高い状態が続くと機能が低下し、右心不全が起こることもあります。ここ10年ほどの間に新薬の開発や研究が進み内科治療効果が飛躍的に向上した結果、患者さんの生活の質も高くなっています。