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在宅看護と難病患者の災害支援の研究を通して、人と人をつなぐ架け橋のような役割を

静岡県立大学 短期大学部 看護学科 講師
今福 恵子 さん

東日本大震災の被災により、災害支援が大きく見直されようとしています。東海地震の発生が予測される静岡県で、難病患者の災害支援をテーマとした研究に携わる今福恵子さんは、VHO-net東海学習会の講師など、患者団体の活動にも積極的に参加されています。看護学科講師、研究者、あるいはNPOのメンバーとして、さまざまな現場の声を聞き、行政・医療・患者をつないでいきたいとの思いを語っていただきました。

訪問看護師から、教育者・研究者になられたきっかけを教えてください

私は静岡市立病院で看護師、訪問看護ステーションしずおかでは訪問看護師として、勤務していました。その時に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんを受けもったことが、難病との出会いです。闘病そのものや人工呼吸器を付けての日常生活の困難さを初めて知りました。学生を連れて実習にいらっしゃっていた、現在の上司である深江久代教授と知り合ったのをきっかけに実習助手となり、教育・研究者の道に進むことになりました。在宅看護論が教育カリキュラムに導入されたのは、1996年。私の学生時代にはまだなくて、現場で先輩たちに教えられ、在宅看護の重要性を実感してきました。学生たちに「訪問看護師になってほしい」との思いを強くもっての選択でした。

看護学科では3年生から実習が中心になり、地域看護を学ぶために、訪問看護ステーションや保健センター、病院ではさまざまな病棟で実習を行いますが、難病患者さんにかかわる割合は、そう多くありません。在宅看護の実習でも高齢者が中心で、人工呼吸器を付けている人を初めて見る、という学生が多いのが実状です。

研究テーマのひとつに「難病患者の災害準備に関する研究」を設定されていますね

東海地震が想定されている静岡県で、在宅看護の現場を見ていますと、災害時の支援体制は看過できません。当時の静岡県難病団体連絡協議会で理事長をされていた野原正平さんと深江教授が親しく、難病勉強会や難病患者さんの生の声を大事にした研究会、シンポジウムなどを開催していました。その縁もあり、2003年に静岡県中部健康福祉センターが中心となって『災害時における難病患者支援マニュアル』を作成した際に、お手伝いをさせていただきました。2007年には、静岡市保健所の協力を得て、特定疾患更新申請者1200名を対象に、アンケート調査を実施しました。調査内容は、災害時の準備として耐震対策の有無、水・食料・薬の備蓄状況、消防署・地域の自主防災への事前連絡の有無、災害に対する不安への有無などでした。アンケートの結果から、これだけ東海地震の発生が予想されていながら、準備状況や災害対策への意識の低さが浮き彫りになりました。また、「日々の療養生活を続けるのに精一杯で、家族も災害準備までは余裕がない」「確かに自助も大切だが、できていないことを認めて欲しい」といった、介助が必要な重症の患者さんの声も聞こえてきました。なぜ準備しないのかと患者さんを責めるような言い方をしてはいけない、できない理由があるのだということを強く感じました。それらの状況をふまえて難病患者の個別性に注目し、2003年版マニュアルの改定を進めようとしていた時期に、東日本大震災が発生しました。

東日本大震災の被災地での聞き取り調査から、どのような対策が必要と感じられましたか

2011年の秋、聞き取り調査のため、岩手・宮城・福島・茨城の4県に入りました。各県の難病連、仙台市障害者福祉協会、県の健康予防課、患者団体の方々のお話を聞くことができました。行政の防災対策・防災訓練、難病や障がい者団体のネットワークが既にあったものの、大地震・大津波とそれらによる被害は予想外の規模でした。広範囲での甚大な被災、各県で難病患者が強いられている困難な生活について聞き、果たして画一的なマニュアルでよいのか、との再検討から始まりました。災害時に個人がどう対処するのか、自己防災意識を高めるための啓発活動が重要だと改めて認識しました。

東日本大震災後、静岡県での難病勉強会で、ある患者さんが「私は逃げない」という発言をされました。本当は逃げたくても、人に迷惑をかけたくないからかもしれませんが、そこには一人ひとりの考え方があります。災害時にはどうするかを家族、仲間、地域の人たちと、普段から十分に話し合っておくことが大切だと考えています。

VHO-net をはじめ、患者団体の活動にも積極的に参加されていますね

東北での聞き取りでは、患者団体の力も実感しました。情報のネットワーク、仲間との支え合い、共通する薬を分け合うなど、つながっていることはとても重要だと思います。

東海学習会への参加をきっかけに、パーキンソン病友の会の活動をお手伝いするようになりました。2013年に予定されている静岡県での全国大会の実行委員会の1人として、医療関係者への参加も呼びかけ、助成金申請のお手伝いをしています。患者団体の活動を活性化していくために、患者さんとその家族だけでなく、難病を取り巻く幅広い分野の人間が連携するVHO-netの存在は、とても頼もしいと思います。

静岡県ではまた、難病患者の支援をしている専門職や当事者が中心となり、「静岡難病ケア市民ネットワーク」が設立されています。これは医師や看護師、保健師、研究者など多彩な人材が集まり、難病ケアにかかわるさまざまな活動を行っている組織です。私もメンバーとなって、難病患者さんの外出支援や研修会にかかわっています。ボウリング大会やお花見交流会などには、学生ボランティアを募集して参加します。患者団体に入っている人は、自分のためだけでなく、だれかのために何かをしたいと思っている人が多いですね。そのパワーや生き生きとした表情に、学生たちも感動しています。

これからの抱負をお聞かせください

私は現場に行って話を聞くことが好きです。学校の仕事でも、1年の大半は学生と一緒に病院や在宅看護の現場にいます。訪問看護師、看護師、保健師、民生委員、患者団体、患者個人をつなげていく架け橋のような役割ができれば幸いです。たとえば、民生委員さんと話をすると、難病について知らない人が多く、驚きます。名前は知っていても知識がなく、「自分が担当するのは無理」と思っている人も少なくありません。そこをつなげたい。研究者としてはまだまだ未熟ですが、現場への還元を念頭に、医療・行政・患者団体といった、さまざまな領域の職種と協働しながら研究を進めていきたいと思っています。

今福 恵子 さん プロフィール

1990年 静岡市立看護専門学校卒業。
2002年 明星大学人文学部心理・教育課卒業。
2006年 静岡大学大学院人文社会科学研究科比較地域文化専攻修了。静岡市立病院、訪問看護ステーションしずおかでの看護師を経て、現職。
■主要研究テーマ
●難病患者の災害準備に関する研究
●在宅ホスピスにおける口腔ケアについての研究
●脳血管疾患療養者の口腔ケアについての研究
●在宅看護における困難事例についての研究