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だれもが快適に暮らせる街づくり・環境づくりを目指し、幅広い分野で活躍。仙台を拠点に国の施策にもかかわる

東北福祉大学総合福祉学部
教授 阿部 一彦 さん

阿部一彦さんは、VHO-netの活動初期から、世話人や東北学習会の運営委員として、多様な活動に取り組んできたメンバーのひとりです。社会福祉法人 仙台市障害者福祉協会や社会福祉法人 日本身体障害者団体連合会などの代表も務め、仙台市や宮城県、国の医療福祉政策や、災害対策などにも広くかかわる阿部さんにお話をお聞きしました。

まず、ヘルスケア関連団体での活動や、VHO-netにかかわるようになったきっかけを教えてください

患者団体とのかかわりは、仙台ポリオの会から始まりました。1990年頃、ポストポリオ(子ども時代にポリオを経験した成人にみられる二次障害)が注目されるようになりました。各地に患者団体ができ、私も仙台ポリオの会を仲間と立ち上げ、海外文献の和訳などを手がけました。また、全国的なネットワークも必要と考えて全国ポリオ会連絡会を結成しました。

一方、仕事の面では、東北大学を経て東北福祉大学に赴任したのをきっかけに、社会福祉分野についても研究したいと考えるようになり、日本社会事業大学でICF(国際生活機能分類)や自助グループについて学びました。現在は、社会福祉学科の教員として「障害者福祉論」、もともとの専門分野である理科系分野の「生命の科学」「生物学の基礎」「解剖生理学」などの講義を担当しています。

日本社会事業大学で、高畑隆さん(前 埼玉県立大学 教授) と知り合ってVHO-netを紹介され、ワークショップなどに参加するようになり、東北学習会の立ち上げにも加わって今日に至ります。

仙台では行政にもかかわり災害対策などの分野で幅広い活動をされていますね

仙台での活動は、仙台ポリオの会をきっかけに仙台市障害者福祉協会に所属したことがベースとなり、当事者の立場から災害対策などにもかかわってきました。もともと宮城県沖では周期的に大地震が起きるので、仙台市は防災・減災への関心が高い地域でした。そこへ東日本大震災が起こり、福祉避難所などは有効な取り組みでありましたが、反対に足りなかった面や課題も明らかになり、障がいの有無にかかわらず、地域住民同士がつながり、支え合う地域づくりが必要であることを学びました。

そこで、2015年に仙台で開催された国連防災世界会議では、市民も参加するパブリックフォーラムを開催しました。また、障害者差別解消法や仙台市の障害者差別をなくす条例の施行は、多くの市民を巻き込むチャンスであると考えて、“障がいがある人もない人も暮らしやすい街づくり”を考える検討会を「ココロン・カフェ」と名づけて一般市民にも参加を呼びかけ、定期的に開催するなど活動を続けてきました。

これから力を入れていきたいと考えているのはどのような活動ですか

仙台市での活動としては、「障害者の減災を実現する仙台イニシアティブ研究会」としてインクルーシブ(包括的)な防災を目指した街づくりに向けて、新年度から災害者要支援マニュアルの作成に取りかかっています。また、各地での条例づくりに当事者の視点を活かし、暮らしやすい街づくりに取り組んでいけるように、仙台市の成果を広く発信していきたいと考えています。

ヘルスケア関連団体の活動としては、仙台ポリオの会としてかかわっているNPO法人 宮城県患者・家族団体連絡協議会 (MPC)の活動を充実させたいと考えています。VHO-netの東北学習会の活動にも言えることですが、東北では、当事者団体の活動が活発ではない地域や、行政との協働が進んでいない地域も多いので、仙台での取り組みを東北全体に広げていけたらと考えています。また、ポリオは新しい患者が発生しないため専門医が減り、十分な医療を受けられない患者が多いことから、宮城県のリハビリ支援センターに検診からリハビリまで受けられるシステムをつくりました。こうした仕組みも全国に広げていければいいなと考えています。

また、内閣府障害者政策委員会の委員として2020年の東京オリンピック・パラリンピックのレガシーづくりにもかかわっています。レガシーとは、大会後に残る有形無形の社会遺産のことで、1964年の東京オリンピック・パラリンピックを契機に、日本では洋式トイレが広まり、障がい者が車椅子で街に出る生活圏拡張運動が盛んになりました。今回も、地域の格差や偏りがなく実現できるレガシーを提案したいと考えています。ちなみに、仙台市は1964年のオリンピックの後にも、車椅子の人が街に出やすくなるように、全国に先駆けて歩道の段差をなくしました。当時から市民と行政がともに考える土壌があり、今もそれが受け継がれているのです。そんな仙台市の良いところを、ぜひほかの地域にも広げていきたいですね。

行政にかかわったり多くの団体や組織が集まるネットワークで活動したりする中で心がけていることや大切にされていることを教えてください

私自身、VHO-netでは多くの学びが得られ、いろいろな人との出会いがあって、ネットワークも広がり、とても感謝しています。私がVHO-netの活動で心がけてきたことは、ほど良い距離感とバランス感覚です。VHO-netは、団体のリーダーが学び合い、支え合うという場ですから、私も研究者というより団体のリーダーとしての立ち位置を心がけてきました。また、東北学習会では特定の大学や地域がかかわり過ぎないように配慮しながら、医療福祉の専門家や行政関係者を必要に応じて紹介するというバランス感覚を大切にしてきました。

VHO-netに参加している方は、それぞれ立場も異なり、所属する団体での活動もさまざまです。そうした多様性を認めたうえで、お互いに理解し尊重しながら、学ぶべきところは学ぶ、そんな関係が良いのではないかと思います。それは、VHO-net以外の活動でも同様で、医療や行政とも、お互いの理解を深めながら、より良い方向を目指すWin-Winの関係を心がけています。

私は東日本大震災を経験し、当事者団体が助け合い支え合うことや、行政や市民とのつながりの大切さも痛感しました。神戸などからボランティアや支援に来てくれた人たちからも元気をもらいました。やはり、基本は、お互いの理解と支え合い、つながることだと思うのです。これからも仙台や私たちの団体での経験や成果を発信し、また、全国や多くの団体の良いところを取り入れながら、着実に歩んでいければいいなと考えています。

阿部 一彦 さん プロフィール

東北大学大学院歯学研究科修了。米国国立衛生研究所、東北大学歯学部助教授などを経て、2001年より現職。社会福祉法人仙台市障害者福祉協会会長、社会福祉法人日本身体障害者団体連合会会長、仙台市障害者施策推進協議会会長、内閣府障害者政策委員会委員、厚生労働省労働政策審議会障害者雇用分科会委員などを務める。また仙台ポリオの会会長として、全国ポリオ会連絡会運営委員、仙台市ひとにやさしいまちづくり推進協議会会長、仙台市社会福祉審議会委員長、仙台市介護福祉審議会委員も務める。