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「つながりをつくる」ことこそVHO-netやヘルスケア関連団体の役割と存在意義

沖縄国際大学総合文化学部教授
心理学博士・臨床心理士 上田 幸彦 氏

VHO-net沖縄学習会に講師として関わり、2010年の第10回ワークショップにも参加された上田幸彦さん。大学で心理学の教鞭をとりながら、臨床心理士として病院や在宅の筋ジストロフィー患者、脳損傷患者団体への心理支援に尽力されています。ピアカウンセリングなどでのヘルスケア関連団体の心理支援やストレス管理について、お話をお聞きしました。

難病患者への心理支援を行う臨床心理士は今、多いのでしょうか

精神科領域での活動の場がやはり大半で、難病患者や身体障がい者に関わっている臨床心理士は、まだ多くありません。ただ最近は、医学界で総合的なケアの必要性がより認識され、チーム医療に心理関係者も加わってほしいとの要請が高まっています。また、今回の東日本大震災では、心理ケアがこれまで以上に重視されていることもあり、臨床心理士を国家資格にするという足並みが、ようやく揃ってきました。現時点では日本臨床心理士会の認定資格なので、医療現場も採用しにくいというのが実情です。

多くのヘルスケア関連団体が取り組んでいるピアカウンセリングについて、臨床心理士の立場から、気をつけたい点とは

第12回沖縄学習会では「ピアカウンセリングの基礎技術」「ストレス・病気とのつきあい方」の講座をさせていただきました。支援者はまずカウンセリングの基礎技術を学び、その次に自分の病気とストレスとの関連を学習していくことが大切です。ストレス管理における対処法ですね。日頃から自分のストレス対処法をいくつか持ち、それらを実践していくとかなり役立ちます。不安やイライラの気持ちをコントロールする「情動焦点型」というリラクセーションを基本とした手法には、呼吸法や瞑想法などすぐに覚えられるものがいろいろあります。身体をリラックスさせて副交感神経が高まった状態にするテクニックです。リラックスしたり、全く違うことをしたりする。散歩でもジョギングでもいいんです。そういう環境に自分をおくことで、深刻に悩んでいたことの見方が、がらりと変わることもよくあります。

VHO-netでは、さまざまなヘルスケア関連団体が共通の課題を持ち寄り、解決するために話し合いを重ねてきました

自分の団体内だけでなく、外部と交流することはとても有効です。ストレスを下げるメカニズムの中には「つながりをつくる」という要素が必ずあります。子育て中の母親がストレスを抱え、自分の子どもを虐待する。ひとりで介護している人が高齢者を虐待する。これらはつながりがどんどん切れて孤立してしまった結果で、非常に危険です。臨床心理士が関わる場合、まずその状況をアセスメントします。その人が今どれだけ人とつながっているか。どこにもつながりがないのなら、臨床心理士との間に最初のつながりをつくります。その後、他につながれる人がいないかを探し、つながれるようにアレンジしていきます。ただ、物理的なつながりはあっても、心がつながっていないというケースもあります。重度の障がいを負った人や、難病になった人も最初はそんな感じになりますね。自分だけがなぜ? ということからつながりが切れ始め、このつらさは他人にはわからないと心を閉ざし始める。一度切れたつながりを修復するのは、自分だけの力では難しい。そういう時にヘルスケア関連団体と出会い、自分だけではない、同じ病気でわかり合える人がいる、というところからスタートする。ひとつできたつながりを増やし、切れた人ともう一度つながることもできる。ヘルスケア関連団体は孤立している人がそこにつながれるよう、その存在を大いにアピールしていってほしいと思います。

治療面だけでなく、生活環境の変化に対する心理支援も重要ですね

私たちはそれを病気の「心理社会的な側面」と呼んでいます。患者さんに生じるさまざまな感情やストレスは、その人の内側だけで起こるのではなく、他の人たちとの相互関係やつながりからも大きく影響を受けています。例えば、病気になることで仕事を続けられるのかという経済的な不安や、生きがいが揺らぐこともあります。病気のことだけでなく、病気があることによって心理社会的な側面がどのように変化したのか、どれだけダメージを受けているのかを理解し、回復していけるように手助けすることも大切です。医師もそこまではなかなか対応できません。

VHO-netでピアカウンセリングの事例集をつくろうという声も。アドバイスをお願いします

事例集の形式をしっかりと構築して取り組むのがよいと思います。つまりどういうところをポイントにして関わったのか、どう解決したのか、フォーマットに沿って書いてもらい、さらに編集段階で整理・統一していく。それができれば困った時の参考になり、勉強会の材料にもなります。単に「自分が相談を受けた人の話を書いてください」では、読む人の参考にはなりにくい。実は、臨床心理士の学会誌はほとんどが事例集です。最初の関わりから結果まで、なかには何年もかかった事例など、すべてフォーマットに沿って書かれています。臨床心理士はあらゆる方に対応する力を高めていかなければなりません。しかし、こちらの経験にも限りがある。そんな時、似たようなケースにだれか取り組んでいないかと事例集で探します。たとえひとつの事例でも、あればヒントになり役立ちます。

最後に臨床心理士としてのやりがいと、これからの抱負をお聞かせください

やはり関わっていくなかで、患者さんの表情が段々と明るくなり、最終的に抱えている問題がすっきりと解決した時は、力になれてよかったなぁと思いますね。なかには3〜4年かかる人もいます。対照的に、数回リラクセーションの方法を教えただけで、自分でコントロールしながらやっていける人もいます。これまでは障がいのある人の支援がメインでした。今後は障がいが発生するに至っていない難病の人も含めて、「その人が少しでもよりよい人生を送るために、心理的なサポートとしてなにができるか」をメインテーマに、研究していきたいと思っています。

上田 幸彦 氏 プロフィール

久留米大学大学院博士課程心理学研究科卒業。1991年国立福岡視力障害センターにて生活指導・心理判定専門職、2002年、福岡市立心身障害福祉センター(高次脳機能障害拠点病院)非常勤臨床心理士を経て、2007年より現職。沖縄国際大学心理相談室長も務めている。